「幻想工房」の雑記帳。 管理人の頽廃的でデカダンな日々を赤裸々全裸に記録
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『もう一つの『三國志』―『演義』が語らない異民族との戦い―』(坂口和澄・本の泉社)
2007-10-03 Wed 05:48
『もう一つの『三國志』―『演義』が語らない異民族との戦い―(坂口和澄・本の泉社) 読了
sangokushi barbarian
「三国の興廃如何は異民族の手に握られていた!!」
英雄たちを"異民族"との関わりから読み解く異色の「三國志」本
今さら「三國志」の素晴らしさを前口上で並べ立てる必要はあるまい。
個性的な英雄たちの活躍、「鼎立」という絶妙の均衡状態などに加え、紀伝体の体裁をとる史書『三國志』自体にも抗いがたい魅力がある。ある事象を調べようとした場合、該当人物の個人伝だけを読んでも真相を掴みかねることが往々にしてある。様々な記述を照合してみてはじめて真相が浮かび上がることが多く、それらの記述の「ズレ」にさえ編者・陳寿の文字に出来ぬメッセージが込められている気がしてくるのだ。何とも迂遠な話ではあるが、「三國志」好きを自認する諸兄にはこの感覚を理解して頂けると信じて話を進める。
そうやって紀・伝を読み耽って、英雄たちの活躍を追っていく中でどうしても視界の外においておきがちになってしまうのが本書の主人公とも言える"異民族"たちである。"中華"の視点に立つとどうしても彼らは魏・蜀・呉の後背地に住まう未開の民であり、"異民族"は三国争覇の脇役だと思いこみがちになる
ところがどっこい、三国時代の主戦場は対"異民族"戦線だったのではないか? との視点で英雄たちの戦いぶりを捉えなおしたのが本書である。異色のテーマであり、数ある「三國志」本でもここまで徹底して"異民族"を扱った書籍は二つと存在しないと思う(あったとしても、日本では入手困難であろう)。『後漢書』・『三國志』・『晋書』を隅々まで読み漁ったという方には物足らない内容だろうが、私程度の生半可な「三國志」ファンにとっては充分に堪能できる内容であったと思う。ただ、既知の事実を扱った内容もそこそこ多い。また、
 ・単純なミスが散見される ・・・例)210年に劉表が生存しているなど p286
 ・引用元は明記してあるが、括弧書きのみで註釈が存在しない
 ・著者の好悪を優先してしまっている箇所が散見される
などの問題点も指摘でき、『三國志 正史と小説の狭間ほどの手放しの評価が出来ないのがやや残念かも知れない(ただ、好悪の激しさについては著者は自覚があり、その旨を断り書きしている。自分の好みで解釈に二重基準を設ける歴史作家の先生方と比べると、はるかに誠意が感じられる旨は、ここに付記しておく)。

ここからは毎度の構成紹介・個評のコーナー
烏丸・高句麗の章」・「鮮卑の章」・「の章」・「の章」・「匈奴の章」・「の章」・「西南夷の章」・「山越ほかの章」の順に"異民族"を大きく分類し、彼らと特に関わりの深かった三國志の英雄たちの対"異民族"業績をコラム形式で紹介していく構成となっている。どれも要領よくコンパクトにまとめられている。一人あたり10ページを越える記述が存在しない。通勤電車内で少しずつ読み進めたい、という私にとってはまことにありがたかった。
なお、以下の個評は評者の好みが入りまくっている点を予め断っておく

「烏丸・高句麗の章」
 ・曹操―『三國志』で一番忙しい人の異民族討伐
 ・公孫瓚―烏丸を恐れさせた「白馬長史」の活躍
 ・劉虞―烏丸には慕われ、公孫瓚には嫌われた
 ・田疇―劉虞の仇を討つふりしただけか
 ・郭嘉―油断している今こそ討伐の好機
 ・曹彰―砂漠で馬を駆り、戎狄を追い払いたい
 ・牽招―曹氏三代に仕えて北方を守る
 ・公孫度・公孫康―遼東に拠って中原を狙う野望を持つ
 ・公孫淵―魏・呉両国を秤にかけて失敗
 ・毋丘倹―高句麗征伐に成功した魏の忠臣の最期
やはり、個人的に好きなのは牽招。こういう「剛柔自在」な武将が個人的には非常に好みだったりする。武辺者とされた曹彰や、「淮南の三叛」の首謀者の一人として「叛将」のイメージで語られる毋丘倹もなかなか良い。気になったのは、田疇の「偽善」(劉虞の仇を討つポーズだけで保身を図った)を非難しておきながら、劉虞の「偽善」(清貧を装っていたが妻妾に贅沢三昧をさせていた)を全く指摘しないのはややアンフェアな感があった。ちなみに、私は両者とも「偽善」を押し通した点を等しく評価する立場である。

「鮮卑の章」
 ・檀石槐―中国侵攻十八回、鮮卑第一の英雄
 ・軻比能・歩度根―漠南で名を馳せて得た悲運の死
 ・田豫―辣腕を振るって鮮卑を手玉に取る
ライトな三國志ファンにはいまひとつ知名度の低い檀石槐が目玉。夭折ではないが天寿に恵まれなかったのは確かで、ロマンを感じさせてくれる歴史人物の一人。ただ、汙人=倭人のエピソードにふれていなかったのは少し残念。諸葛亮が軻比能と連携して魏に侵攻したのは有名だが、軻比能の対応が煮ても焼いても食えないあたりが興味深い。また、牽招以上の功績を挙げた田豫も個人的には好み。以前から調べ尽くしていた人物ではあるが、やはりこの生き様は何とも眩しい。

「羌の章」
 ・段熲―羌族が恐れた勇将も身の処し方を誤って
 ・董卓―暴走を可能にした羌族の支持
 ・韓遂―涼州で暴れた将軍の侘しい晩年の姿
 ・馬騰―子のお陰で「忠臣」にされた西涼の勇将
 ・蘇則―雍・涼二州で成功した異民族への対応
 ・馬超―勇猛を謳われたのは関中攻防戦まで
 ・諸葛亮―北伐の狙いは実は涼州の獲得にあったのか
 ・蒋琬―涼州を得て少しでも鼎立を長引かせたい
 ・姜維―連年の出兵は経済的逼迫から逃れるため
蜀将が多めに登場。知名度が低いのは段熲蘇則くらいか? 韓遂については、最後まで節義を守った傑物・成公英の印象が強くて、個人的にはもの凄く魅力を感じる武将なのだが・・・ 蘇則は『三國志群雄録』でやや意地悪く「汲黯のなりそこない」として酷評していたが、対異民族対策ではその誠意を高く評価していたのが印象的。馬超については・・・「演義」での没年のズレについては、いろいろ考察すると興味深いのだが、ここでは深入りを避ける。「雍州を扼して涼州を奪う」諸葛亮の北伐については、法正のプランに強く影響されているのは周知の事実。ただ、蒋琬の模索していた「荊州方面からの北伐」を雍州・涼州ルートのフェイク、と断じるのには同意しかねる。姜維は・・・本当によく頑張ったと言ってやりたい

「氐の章」
 ・夏侯淵―氐・羌を怖れさせた「白地将軍」
 ・張既―曹操・曹丕に評価された異民族対策
 ・郭淮―諸葛亮・姜維の涼州進出の悲願を挫く
やはり、夏侯淵の評価が低い・・・「白地将軍」=無駄な動きをする将軍とされているが、これはあまりに意地の悪い評価では無かろうか。運動戦を得意とする戦いぶりや、その勇猛さから夏侯淵は武辺者と考えられがちだが、官渡の戦い当時は後方で補給担当となって見事に職務を果たしている。補給は細かい気遣いが必要な職掌で、諸葛恪の様な知恵者でさえも適性がなければ務まらなかった。夏侯淵は確かに知恵者ではなかったろうが、決して愚者でもなかった。あるいは自覚的に猪突猛進の猛将を「演じていた」可能性が高いのではないか、と考えている。また、多分に自己犠牲的な性格でそれが命取り(危機に陥った僚将・張郃を救うために部隊を分割したのが敗因)となった夏侯淵だが、異民族相手であると彼らの家族愛の強さを逆手にとった詐術を用いている点が印象的。郭淮は、魏にとって西部戦線の守護神というか真のエース。正直、さほど戦闘(戦争ではない)が得意ではなかった司馬懿より、非凡な戦術眼の持ち主であった郭淮の方が蜀にとってははるかに厄介な相手だったと言える。

「匈奴の章」
 ・南匈奴の単于たち―活力を失ったかつての北辺の雄
 ・梁習―いいように異民族を操った凄腕
南匈奴が中国国内で傭兵団まがいの生活を送っていたのは周知の事実。梁習が小狡いことは同意。ただ、魯昔(愛妻に会うために魏に謀反)を引き合いに出して、たびたび家族を捨てて逃亡した劉備の家族愛の薄さを非難するのはいささか意地が悪すぎる気がする。曹操や孫権が劉備の立場であっても、恐らく同じ行動をとっていたはず(実際に曹操は曹昴を見捨てている)。司馬懿(糟糠の妻を「老耄奴」呼ばわり)・司馬師(権力を得るため夏侯徽を見殺しに)らとは違って、不可抗力だったと思うのだが・・・

「蛮の章」
 ・劉備・関羽―武陵の五谿蛮をせっかく味方につけながら
 ・王平―あるいは板楯蛮との混血だったか
 ・張脩・張魯―板楯蛮や流民に支持された五斗米道
 ・張郃―板楯蛮保護を果たせなかった宕渠の敗北
 ・潘濬―武陵蛮の叛乱鎮定だけで三年九ヶ月
関羽が樊城を攻め立てた際、侯音ら「群盗」に印綬を与えて後方撹乱させたのが大きかった(攻勢正面の裏側に調略を仕掛けるのは関羽をはじめとする劉備主従のお家芸)、この「群盗」がかつて移住させられてきた西戎の末裔、という説は非常に興味深かった。また、この項で『後漢書』・『捜神記』の武陵蛮誕生神話に着想を得て、滝沢馬琴が八房→八犬士の設定に流用しているという指摘は個人的には新鮮だった。王平が板楯蛮の血を引いていた、とする説は『三國志 正史と小説の狭間』で既知であったが、「偏狭」「疑い深い」「軽はずみ」と評される彼の性格が、異民族ゆえの劣等感と解釈するのはなかなか面白い。個人的に「最高の魏将」張郃については、本当に宕渠で張飛に勝利していれば蜀に致命的な打撃を与えていた、ことがよく判る。そういう意味で、この恐るべき魏将を退けた張飛の活躍はまさに「値千金」だったと言える。張脩張魯の関係については裴松之説ではなく、「魏略」の記述を採用している感じか

「西南夷の章」
 ・諸葛亮―南征の真の目的はどこにあったか
 ・馬忠―西南夷は畏れつつも敬愛した
 ・李恢―郷里の異民族を欺いてみごとな勝利
 ・呂凱―諸葛亮を感動させた永昌郡の節義
 ・張嶷―自在な対処は「七檎七縦」さながらに
 ・猛獲―「心戦」に敗れて蜀に仕えた西南夷の首領
魏に田豫・牽招が、呉に黄蓋・鍾離牧がいるなら、蜀には馬忠張嶷がいるぜ!! というのが、蜀ファンの心の支え。この二人は蜀ファンとしては大好きなので、是非何らかの形で取り上げたい。特に張嶷の生き様は熱すぎる。「格好いい蜀将」といえば、最有力候補だろうな~ 呂凱伝の末尾に諸葛亮から「節義」を讃える一文が添えられているのが気になっていたが、「呂不韋の子孫なのに~」という文脈で捉えれば確かに意味が通る。これは目から鱗だった。李恢の項にあるようにこの当時の西南夷のほとんどは在地の漢民族豪族と結託し、呉に使嗾されて叛逆を起こすのがパターン化しているのが判る。これは、次章の「山越ほかの章」でより顕著になる

「山越ほかの章」
 ・孫権・周泰―魏・蜀を手玉に取りながら山越には
 ・黄蓋―その活躍は赤壁の戦いだけではない
 ・賀斉―山越鎮圧一筋の名将を『演義』は黙殺
 ・周魴―山越を討ち、山越を利用して曹休を誑かす
 ・陸遜・陸抗―西陵を失えば蛮夷を抑えきれなくなる
 ・陸凱・陸胤―「柔」をもって交州を治めた名刺史
 ・諸葛恪―最も効果を挙げた山越懐柔策
 ・鍾離牧―進取の計を披瀝するのをためらったのは
 ・士燮―孫権に使い棄てにされた一族の悲運
 ・呂岱―万里を駆けめぐる『三国志』第一の老将
対魏・蜀戦線以上に、対山越戦線こそが主戦場であった呉。賀斉呂岱は呉のエースであったが、対山越のエキスパートだっただけに低い知名度に甘んじていると言える。赤壁の殊勲・黄蓋もむしろその本領は剛柔自在の山越対策にあったと言える。注目したいのは周魴の項か。呉でたびたび「宗族」を率いて叛乱を起こしている連中は漢族だと思いこんでいたが、どうやらこれらは山越族らしい。これはもう一度「呉書」を読み直す必要があるかも。また、士気が著しく低く部隊の壊乱を招きやすい山越部隊が攻められことを察知して、事前に漢族部隊と配置換えを行っている陸抗の心配りが泣かせてくれる。山越族を兵士として利用していた呉軍だが、動員兵力は蜀より多くとも信の置ける実働部隊は少なかったと言うことか。
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この記事のコメント
読み終わりました
私のようなミーハー三国志ファンにとって、異民族戦だけに特化されたこの本は意外な話が多くて楽しめました。
教えてくださってありがとうございます。

やはり張嶷は蜀の至宝ですね(笑)
2007-11-26 Mon 23:19 | URL | すかいらいたあ #-[ 内容変更]
毎度どうもです

この本はライトなファンにはやや重すぎる内容なので、ちょうど「半判り」くらいのわたしのような者にとってはなかなか楽しめる一冊でした。武将一人一人の分量が控えめで、要領よくまとまっているのが嬉しかったです

張嶷は本当に蜀の至宝です。
ローカルだからこそ活躍できたという見解もあるようですが、北伐での奮戦ぶりからも当時の野戦指揮官としてはトップクラスの力量が備わっていたことが見て取れますので。それに加えて、あの度量とバランス感覚と人間味。本当に素晴らしい武将ですよ
2007-11-27 Tue 00:50 | URL | オジオン #-[ 内容変更]
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